結果発表 > 第1回 小さな今井大賞

 



 

文化振興と新人クリエイターの発掘を目的に創設いたしました「小さな今井大賞」。
予想を上回る多くのご応募をいただき、まことにありがとうございます。
厳正なる審査の結果、下記のとおり受賞作品を選定いたしました。

 

また今回、最終選考委員会で審査を行った結果、
大賞の他に特別賞を選出することになりました。

 

大賞受賞者は賞金10万円の贈呈と作品の書籍化、
特別賞とU-30短編賞受賞者は作品が書籍化されます。
力作をご応募くださったみなさまには、あらためて深くお礼申し上げます。

 


INDEX

 ○ 総 評
 ○ 《大賞》小説の部 一般
 ○ 《特別賞》小説の部 一般
 ○ 《受賞作品》小説の部 U-30短編賞
 ○ 《受賞作品》写真集の部
 ○ 最終候補作品 講評
 ○ 審査員プロフィール


総 評

大賞は原稿用紙200枚以上という規定のため、果たしてどれくらい集まるのかと心配していましたが、予想を超える数の応募があったのはうれしいことでした。年齢も10代から80代まで幅広く、また多様な作風の小説が集まったことに驚いています。
ジャンルの異なる作品の選考は難しい作業でしたが、オリジナリティー、構成、表現の観点から、まず10作品を予選通過作品として選び、熟読と討議をへて、大賞と特別賞を決定しました。

審査員 小説家・松本薫


《大賞》小説の部 一般

 

《大 賞》
『孤どもたちへのクロッキー』 長谷川 雅人

講評

どうしてもこれを書かねばならないという切実さと、読む者の胸倉をつかんで離さない強さがありました。名前が原因でいじめられている「ぼく」は養護学校に通うことになり、そこで絵の上手な「西君」と親しくなりますが、西君は親からネグレクトされ施設で暮らしています。「ぼく」が好きな「磯江先生」はほかの教員からいじめられており、西君が好きな画家の「日下部さん」も養護学校の出身です。みな繊細でやさしい人たち。人物造形がややワンパターンで、話の進め方に独りよがりな点も散見します。全体の構成もうまくありません。それでも、この作者にしか書けないと思わせる切実感、また痛みを感じるような独特の文章には、強く惹きつけられました。(審査員 松本 薫)

 

熱量と筆圧がすごい。荒削りな部分も感じますが、間違いなくこの作者にしか書けない言葉と物語です。心の内側の観察力と、それをそのまま表現できることをうらやましく思いました。(審査員 角田 治)

 

本賞の応募要項にある「オリジナル」という面でこの作品が群を抜いており、作者の強い意志や凄まじい気迫を感じました。独特の視点と文体でつづられた、不思議な魅力をもっています。文の書き方については、繊細な表現や心理描写が丁寧で、養護学校や施設の内情を詳しく知らなくてもきっとそうなのだろうと思わせてくれるリアリティがある一方、物語としての構成があまり出来ていないような印象も。しかし、その部分をもカバーする作者のパワーに誰もが圧倒されました。(小さな今井大賞運営チーム)


《特別賞》小説の部 一般

 

《特別賞》
『あの頃のままに』 石田 光輝

講評

作曲家・歌手である作者の自分史、あるいは自伝といえる作品です。起伏にとんだ人生の軌跡とともに、リズムとユーモアのある文章が読ませます。昭和世代にはなつかしい歌手名、グループ名も登場し、芸能史のような部分もあります。小説ではないため大賞候補にはなりませんでしたが、何らかの形で出版されることを願い、特別賞に推しました。(審査員 松本薫)

 

軽快な語り口でぐいぐい先を読ませる不思議な力がありました。小説ではなくノンフィクションのようですが、波乱の多いエピソードと語りの巧さが妙に合っていて最後まで飽きずに読めました。(審査員 角田 治)

 

主人公が音楽の世界にどっぷり浸かっていき、そこからの人生山あり谷ありのストーリー構成は読んでいてとても引き込まれました。自分以外の波乱万丈な人生を好んで読むのは、古今東西、人間の本能のようなものでとにかく面白かったです。自伝的で私小説といいますか、オリジナル小説というよりはノンフィクション寄りでしたので大賞候補から外れてしまったのが残念です。(小さな今井大賞運営チーム)


《受賞作品》小説の部 U-30短編賞

 

(10作品・受付番号順)

『世の中カフェ』 なっP
『リトル・グッバイ』 文月めぐ
『落とし物、忘れ物』 津隈桂
『海を彩る』 白福いち果
『雪は舞う、スノードームに』 南光絵里子
『朝宮と博士』 弓波ゆる
『Houx & Lilas』 文月リュウ
『キャッチアンドスロー』 山崎英和
『夢のあとさき』 さざわさぎ
『サクラの歯磨き粉』 保科史歩

 


《受賞作品》写真集の部

《大 賞》
該当者なし

 

《佳 作》
『舞詠の神楽』 mr lonely
『身近な美』 竹下 敏広

全体講評

中学生からプロの方まで、また撮りためた写真をまとめたり、コンテストを期にテーマを持って撮影されたりと多数の力作が集まりました。30点から100点という、コンテストとしては多くの写真が必要な今回のコンテストにこれだけの応募が集まったのは嬉しい誤算です。

しかし今回は「該当者なし」とさせていただきました。高い品質の写真を多く含む応募作品もありました。ユニークなテーマに沿って撮られた力作もありました。しかし一冊の本にするには完成度が足りないということに審査員の協議の上決定しました。

テーマとしては「何気ない日常」が多かったです。テーマとして勿論有りですが、誰もが思いつくテーマなので独自の視点が不可欠です。また一冊の写真集であれば一遍の物語になっているか、幾つかの組み写真としてまとめる必要があるでしょう。「山陰の風景」等のテーマもありましたが、このようなテーマでは一点一点の写真に人を惹きつける力が必要で、やはりサブテーマや時系列などでまとめる事も必要でしょう。「記録」がテーマの作品では時間もしくは要素が比較できる程の幅か深みが欲しいと感じました。

今回応募された方々は、写真集のテーマを決めること、写真集として出版するだけの写真を撮る事と選ぶ事、そしてそれらをまとめる事の難しさを痛感されたのではないでしょうか。しかし写真集を出版するという事は写真家にとって大きなステータスになります。是非「写真集の出版」を目標にテーマと思いを持って写真を撮って欲しいと思います。(審査員 写真家・廣池昌弘)

 

 


最終候補作品 講評

小説の部 一般 
『海神の声が聞こえる』 古村 サキ

映画監督の主人公が、コロナの非常事態宣言で鳥取に帰郷し、偶然再会した同級生(女性)の映画を撮る話。それぞれが心に傷を抱えていて、映画を撮ることで、その傷が癒えていきます。詩的で雰囲気のある文章ですが、ときおり妙に理屈っぽくなるのが残念です。人物にもう少しリアリティーがほしいです。(審査員 松本 薫)

静かな語りが心地よかったです。(審査員 角田 治)

都会と田舎の温度差や、夢破れた若者の微細な心の動きがよく表現されており、山陰のような地方都市出身の人間にとって「実際にこういうことあるなあ」と共感せざるを得ません。文は詩的で温度感の低いモノクロ映画のように感じられますが、「殆ど」「余所」などの漢字表現を多用しているので途中が少々くどい印象。登場人物のセリフも劇調でリアリティに欠けます。(小さな今井大賞運営チーム)

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『ペテン師』 うえだ ジョージ

全体の構成や人物造形がしっかりしていて、総合点において高いものがありました。うだつの上がらない男が、ひょんなことから新興宗教の教祖に祭り上げられる顛末を描いています。文章が平明で読みやすく、セリフも上手です。男の妻がぽんと大金を出すところなど、ややリアリティーに欠けるところがあり、ストーリーが都合よく運びすぎているように感じられたのが残念でした。(審査員 松本 薫)

作品のレベルは非常に高く、無駄のない落ち着いた文章で安心して読めました。人物像がつかみやすくセリフだけですらすら読ませるのは巧いです。(審査員 角田 治)

無駄のないストーリー構成に引き込まれました。趣のある文体が粋で、最初は違和感のあった似非関西弁がだんだんと心地よく、それでしか表せない言葉として聞こえてくるのは長編ならではだと思いました。ただ、若干のご都合主義的な違和感が残りました。(小さな今井大賞運営チーム)

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『テストプレイヤー1』 尾方 智隆

ゲーム小説とでもいうのでしょうか、新開発ゲームのテストプレイヤーになったら、意識がゲームの世界に行ったきりになって戻れなくなってしまったという話。アイデアそのものは目新しくはないけれど、ゲーム世界での展開がおもしろく、文章もこなれていると感じました。ラストもミステリ風でいいのですが、やや長すぎる気がします。完結していないのも残念な点でした。(審査員 松本 薫)

中世ファンタジーの世界で、元看護師が現代の医療知識を活かすミスマッチは好きです。ただ、予期せぬトラブルでRPGの世界に迷い込んだわりに、主人公に焦りがなく、むしろ楽しんでいるようで、やや都合がよいかな?と感じました。手慣れた文章ですらすら読めましたが、主語が多く感じました。(審査員 角田 治)

ゲーム好き、RPG好きにはたまらないお話。話のテンポが非常にいいので読みやすく、キャラクターも魅力的。ボリューミーではありますが、それも気にならないほど面白く読み進められました。タイトルが既存映画に酷使しているので、非常にもったいないと感じます。また、続編があるような終わり方だったので、解決されていない謎が残されていたのが気になりました。(小さな今井大賞運営チーム)

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『バスケットボール・モノローグ』 安藤 裕史

さわやか系のスポーツ青春小説。横暴な監督に反発してバスケ部を辞めた「僕」が、バスケ好きで重い心臓疾患をもつ少年と親しくなったことで、再びバスケットに情熱を燃やす。よくあるストーリーですが、バスケの試合に淡い恋や少年の病気を組み込み、うまく物語を作っています。タイトルに「モノローグ」とあるからなのかもしれませんが、やや説明過剰に感じるところがありました。(審査員 松本 薫)

まさに青春のモノローグだな、と思ったらタイトルにそうあり納得しました。時々、ちょっとくどい感じの言い回しがあるのも、むしろ共感が持てました。(審査員 角田 治)

物語としての構成や分かりやすさは抜群でまとまりがあり、バスケットボールの試合シーンも未経験者にも分かりやすかったです。「このシュートは決まる……」という場面が何度か出てきましたが、最後に裏切られる使い方は非常に好感が持てました。部活動を主軸に友情、恋愛を絡めたり病気の少年が登場したりするのはスポーツものとしては王道で、少々目新しさには欠ける印象でした。(小さな今井大賞運営チーム)

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『雪がとけたら、なんになる?』 村田 真奈美

ピュアでやさしいBL小説。心理を丁寧に追う筆致には好感を持ちました。まわりがみんないい人で、二人の恋の障害が外に存在しないのが残念です。やや平板なストーリーになってしまいました。二人の気持ちが最大の障害だとしても、乗り越えるものは外に作ったほうがいいと思います。(審査員 松本 薫)

気まずい別れ方をした幼馴染の二人。若い小説家とシングルファーザー。このワードだけで、何かの物語のはじまりを予感させました。落ち着いた文章で、するする読めました。(審査員 角田 治)

心理描写が非常に丁寧で、この殺伐とした現代の中において優しくて心があたたまるお話でした。チームの中には「気づけば途中で涙が出ました」というメンバーもいたほど。こういう世の中になればいいな、と思わせてくれる作品です。しかしステレオタイプといえばそうで、世界観が優しすぎるあまり小説としての盛り上がりに欠けてしまった印象でした。(小さな今井大賞運営チーム)

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『ポッポ船に乗って』 弓月 笙

昭和二十年代を舞台に、父が亡き妻(母)の青春時代を語ります。出てくる人物がみな明るく前向きで、風通しの良い作品になっています。作中に登場する「青い山脈」を思わせる作風で、好感を持ちました。結婚しても仕事を続けるといい、熱心な保母だった主人公が、見合いであっさり仕事を辞めると決めたのは、読者としてちょっと納得できませんでした。見合いのシーンで終わるのも、小説としての格好がついていません。(審査員 松本 薫)

タイトルがうまいなと思いました。ただ、全体的にやや説明的な文章になってしまい、情景や人物像もつかみにくかったです。(審査員 角田 治)

主な舞台は戦後間もない昭和20年代。山陰出身者には馴染みのある方言や情景で温かさを感じさせる一方、何気ない日常の中で戦争がもたらした弊害、これまでの倫理観を根底から覆された当時の人の繊細な心情が見事に描かれています。その分、これまでの物語をたたき切ってしまうかのようなあまりにもあっけない結末が非常に残念。現代パートもあまり必要性を感じませんでした。(小さな今井大賞運営チーム)

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『大空放哉』 足立 悦郎

尾崎放哉のおもに晩年のようすを、「夕子」という俳句雑誌編集者がゆかりの人たちに訪ねてまわります。さまざまな文献や資料に当たられていることがわかりますし、抑制の効いた文章は、熟練の域を感じさせます。「夕子」が黒子役に徹しすぎており、人物として立ち上がっていないのが残念です。放哉を知らない人にも、興味を抱かせるようなものであればと思います。(審査員 松本 薫)

しっかりとした文章と内容。安心して読めました。(審査員 角田 治)

俳句雑誌の女性記者が、尾崎放哉の死後、彼の関係者を取材していきますが、次第に明らかになる放哉の心情や暮らしぶり、自由律俳句への情熱をたどりながら、深い感動を覚えました。文章も淡々と抑制が効いており、尾崎放哉の全作品を十二分に読みこなしたうえでの自然な流れで、一気に読ませる力があった作品です。ただ、尾崎放哉を知らない人にはややとっつきにくい内容でした。(小さな今井大賞運営チーム)

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『メモワール ~あの夏の記憶~』 出雲 ノアラ

繊細でやさしい小説です。夫を交通事故で亡くした「私」は、五歳の息子と二人暮らし。両親もすでに他界しており、弟は行方がわかりません。「私」は松江に住む祖母が「私」のことを忘れてしまっていることにショックを受け、祖母との思い出を探す旅に出ます。主人公の境遇はなかなかハードだと思うのですが、事件らしい事件も対立もなく、やさしくふわっとした世界が描かれます。そこを少し物足りなく感じました。(審査員 松本 薫)

情景が浮かぶ語り口でした。「夏」「ヒグラシ」「ビー玉」「砂鉄」「さがしもの」などのキーワードが季語のように印象的に使われていおもしろかったです。(審査員 角田 治)

遠い記憶とともに蘇る、いつしか忘れてしまった心の機微が、山陰の穏やかな風景に心地よく重なります。今はここにいない大切な人たちも、胸のうちに確かに息づいている、そんな優しい確信を与えてくれる作品でした。夫と両親を亡くし、弟も行方不明、大好きだった祖母の認知症など、厳しい境遇の設定の割にはその辺りがはあまり生かされていないのが残念でした。(小さな今井大賞運営チーム)


審査員プロフィール

小説の部 | 松本 薫(まつもと かおる)

鳥取県米子市生まれ。2000年「ブロックはうす」で早稲田文学新人賞を受賞し、2005年「梨の花は春の雪」が鳥取県西部で制作される市民シネマの原作に選ばれる。おもに鳥取県内の歴史や、ゆかりの人物をモチーフにした小説を書いている。『梨の花は春の雪』(2006)、『TATARA』(2010)、『ばんとう―山陰初の私立中学をつくった男』(2017)で鳥取県出版文化賞を受賞。NHK米子文化センター「小説・エッセイ講座」講師。

小説の部 | 角田 治(つのだ おさむ)

クリエーター、フリーライター。広告代理店勤務のグラフィックデザイナーをへてフリーランスに。角田デザイン事務所の屋号で、地方出版の企画、編集、イベント企画、および執筆活動をおこなう。主な仕事「谷口ジロー原画展」「安彦良和原画展」企画、運営。

写真集の部 | 廣池昌弘(ひろいけ まさひろ)

1962年生まれ。写真家&システムエンジニア(特種・第一種情報処理技術者)。2015年 オリンパス・オープンフォトコンテスト グランプリ。2020年「 Sony World Photography Awards 2020」プロフェッショナル部門「Natural World and Wildlife」 第2位。同年「6TH Fine Art Photography Awards」Nominee×3部門(「Night Photography」「, Travel」「, Wildlife/Animals」)。同年「5TH 35AWARDS」Motion第3位、Night Landscape TOP100。

 

ご応募いただきましたみなさま、誠にありがとうございました。
*募集要項や途中経過など、詳細は コチラ よりご確認いただけます。


2020年12月21日

小さな今井

〒683-0063 鳥取県米子市法勝寺町64

Fax.0859-21-2774

営業時間 10:00~18:00